大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和38年(ネ)94号 判決

控訴人 小幡義治

右訴訟代理人弁護士 庄司進一郎

同 平山芳明

被控訴人 社団法人 徳島新聞社

右代表者専務理事 山内弘文

被控訴人 山内弘文

被控訴人 高浜正

右被控訴人三名訴訟代理人弁護士 小川秀一

同 岡田洋之

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

当裁判所の事実認定および法律判断は次に附加するほか、すべて原判決の理由と同一であるから、ここに右記載を引用する。当審に提出された疎甲第二〇号証をもつてしても、右認定、判断を左右しえない。

(一)  控訴人の前記主張(1)について。

≪証拠省略≫によると、昭和三六年九月頃から専務理事たる控訴人と他の理事との間に確執が生じ、爾来(イ)同年一一月頃控訴人を除く他の理事達が会合して専務理事たる控訴人が営業局長を兼務しているのを解いて、その後は専務理事の関与しない局長会議によつて社務を運営することを決定し、控訴人の承諾を得て営業局長を辞任させたこと、(ロ)昭和三七年一月初旬にも専務理事たる控訴人を除くその他の理事が会合して、控訴人に専務理事辞任を求め東京駐在とすることを決定し、控訴人にその承諾を得て専務理事の辞表を提出させたこと、等の事実があり、それらの場合は正規の理事会招集手続によらずに控訴人を除く他の理事が会議を開いたものであるが、実質的には理事会として機能していたことが認められる。そして控訴人の専務理事解任を決議した昭和三七年二月一〇日の理事会も、上記の事情のもとに前認定(原判決引用)のとおり控訴人が専務理事の辞任の意思を撤回したため控訴人を除く他の理事(但し東京駐在理事を除く)が控訴人に対し同日理事会を開催したい旨を告げて出席方を求めたところ、控訴人が午後なら出席するといつて右開催に同意したものの、午後に至つてにわかに「専務理事解任なら反対だ、出席しない」と態度をひるがえしたので、右理事達が控訴人欠席のまま開催したものである。このように控訴人と他の理事とが対立し不和である上、他の理事達が控訴人に不利益な措置をとろうとするとき、あくまでも専務理事たる控訴人に理事会の招集を求めるという正規の手続によらねばならないとするのは難きを強いるものであつて、相当ではなく、他の理事達全員の合意によつて理事会を招集しうるものと解すべきである。したがつて右理事会における控訴人の専務理事解任の決議は、適法に成立し有効であるというべきである。もつとも昭和三六年五月三一日以降は、前川静夫も理事であること後記のとおりであるのに、前記の同年一一月以降の理事会に同理事が出席したことは、これを窺うことができない。しかし弁論の全趣旨によれば、控訴人に対する前記の営業局長辞任または専務理事辞任ないし解任の措置は、前川静夫の意図に合致こそすれ決して反するものではないことが明らかであるから、同人の出欠によつて事態に変更はないものと解せられる。

(二)  控訴人の前記主張(2)について。

≪証拠省略≫によると、昭和三六年五月三一日開催の第一八回通常社員総会において、社員権の再配分が行われていることが認められるところ、定款によれば、社員権の譲渡を承認するのは理事会の権限とされている。しかし右乙第三号証によると、右社員総会には杉本清理事を除く他の理事六名が全員出席し、右杉本理事は議決権の行使を議長前川静夫(会長であつたが当日理事に就任した)に委任していたところ、前記社員権の再配分は、前川静夫の提案に出席者一同異議なく賛成して決定されたものである。したがつてもし理事会において右提案を審議した場合も同じ結論に達したであろうと推測される。そして社員総会は社団法人における最高の意思決定機関であること、被控訴新聞社においては、理事会の決議は会長(前川静夫)の承認を要することとなつていること(昭和三七年四月二七日改正前の定款第二二条)等を併せ考えると、前記社員総会における社員権の再配分をあながち無効とするのは相当でない。

また右社員総会で前川静夫が総持分一、〇〇〇口のうち過半数の五六〇口を保有することになつたからといつて、社団法人の性質上右持分取得の妥当性はともかくそれをただちに無効であると解さねばならないわけではない。

さらに疎乙第九号証は、証人阿部滋の証言によつて成立を認めることができ、それを架空のものであるとする証拠はない。

したがつて昭和三七年二月二五日開催の臨時社員総会が無効であるという控訴人の主張は採用できない。

(三)  控訴人の主張(3)について。

≪証拠省略≫によると、前川静夫および梶浦義広はいずれも昭和三七年当時六〇才であつたことが認められるが、≪証拠省略≫によると、前川静夫は昭和三三年三月一九日までは理事、その後は会長の職にあり、昭和三六年五月三一日から再び理事に就任したもの、梶浦義広は昭和三二年三月以来監事の職にあり、昭和三六年六月に理事に就任したものであつて、定年の後も理事、会長ないし監事等の職にあつたことが認められる。右のように理事、会長、監事等の職にあるものについては、原判決説示のように定年制の適用はないと解するのが相当である。したがつてかかる場合(その他に控訴人主張のような事例は認められない)の事例をもつて控訴人のごとく理事を退任し、単に社員ないし職員である場合を律するのは適当でなく、控訴人のこの点の主張も理由がない。

以上の次第で原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。よつて民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浮田茂男 裁判官 水上東作 石井玄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例